【中井友望インタビュー】初主演映画でヤングケアラーの少女役を熱演 “JK散歩”にも足を…「同じ立場なら自分もそうなってなかったとは言い切れない…ですね」

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中井友望
中井友望

「ミスiD 2019」グランプリで、現在は女優として活躍する中井友望さん。そんな彼女の単独初主演映画となる『サーチライト-遊星散歩-』が14日に公開される。“ヤングケアラー”“JKビジネス”などヘビーな題材を扱った本作に挑んだ彼女の思いを聞いた。

--本作は一見普通の女子高生が、病を患った母を一人で看病し、母と二人の暮らしを守るために奔走する物語。生活費のために、お金をもらって年上男性とデートする“JK散歩”に足を踏み入れていきます。結構ヘビーな内容だと思いますが、最初の印象はどうでしたか?

「置かれている環境はすごく大変なんですけど……うーん、それがかわいそうというよりも、すごい必死で頑張って戦ってるんだなという、後ろ向きというより前向きな印象を持ちました」

--演じた主人公の果歩はお母さんのことが大好きなんですよね。

「そうですね。お母さんとのシーンは台本を読んでても微笑ましくて」

--今回の起用はオーディションではなく指名で?

「はい、企画・脚本の小野周子さんのシナリオをプロデューサーの直井さんが読んで、私のイメージに合うとなり、その後、小野さんが当て書きで改稿してくださって…」

--なるほど。ちょっとした振る舞いの中に中井さんっぽいなと感じるところもあります。周りがこうしているから、というのに流されないところとか。本作で扱われている“ヤングケアラー”“JKビジネス”などにもともと知識はありましたか?

「いや、まったく……。ヤングケアラーに対する知識はなかったし、JK散歩もあまり聞いたことがなかったです。知らないことが多かったんですけど、でもだからといって調べようとせず、知らなくていいかなと思っていました」

--それについて書かれた本を読んだりとかもしなく……。

「詳しくなくていいし、実際、その当人はそういうことに詳しくないと思うんです。そういう環境にいて、その中でただ必死に一生懸命頑張る女の子だったので……」

--詳しく知りすぎると、芝居が客観的になっちゃうのかも。

「そうですね、そうかもしれないです。実際そういう環境に置かれている人は、それを自覚していないし、お金を稼ぐためにできることはするじゃないですか」

--お金を稼ぐために、詳しくわかってなくてJK散歩に足を踏み入れる。

「そのときに一番お金を稼げる手段として」

--必死で生きている感じがすごく伝わってきます。そういうギリギリで生きている環境だから、感情を露わにするシーンも多いです。

「今回、今までの作品の中で一番感情を出すお芝居をしました。今までそれを自分がどう捉えて演じるのかわからなかったんですけど、今回まったく客観的じゃなかったです。そのセリフを言っているとすごいぐっとなってきたり、というのは、今回初めて経験しました」

--撮影は台本の順に沿って撮るのではなく?

「わりとバラバラでした。でも後半のラブホテルのシーンはちゃんと最後に撮ってもらいました。そこでクランクアップでした。じゃなかったらしんどかったかもしれないです」

--体当たりで熱演していますからね。そこは本作のクライマックスで、中井さんの芝居的にも見どころです。ところで、果歩のお母さんは若年性認知症を発症し、その世話をしていたお父さんが他界、一人でお母さんの世話をしている。もし自分がその環境にいたら、同じように健気に対処できると思いますか?

「うーん……私はできると思います。だから、自分自身こういう環境を実際に経験したわけでもないですけど、自分と近いなと思えたのかもしれないです」

--お金を稼ぐ手段として、コンカフェの門を叩き、そこからJK散歩へ足を踏み入れるというのもわかる?

「そうですね……本当にちょっとしたことで、そういう道を選ぶことってあると思うし、自分でもそうなってなかったとは言い切れない……ですね」

--明らかに売春とかだと行かないけど、怪しいのはわかるけど詳しくはわからないくらいなら……。

「覚悟はあったんだと思います」

--撮影はわりと前ですか? 劇中では髪も今より結構短いですよね。

「そうですね、1年半前……くらいです」

--その段階だと、女優としてのキャリア的にもこれからということで、かなりチャレンジの作品だったのかなと。

「そういう意識はあんまりなかった気がします。多少緊張はありましたけど、それが変に重荷になることはなく、プレッシャーとかもなく……」

--しかも単独初主演。

「そうです」

--その意味でのプレッシャーもあんまり……、

「なかったですね」

--自分とはかけ離れている役を楽しめるタイプ?

「そう……なのかも」

--等身大の自分に近い役より。

「でも、どっちも楽しめると思います。今回の果歩とも環境はかけ離れてますけど、果歩という人間の性格だったり、似てるなと思える部分がある。そういう意味でいうと等身大でもあるし……」

--当て書きということですからね。

「それで私がやりたいなとすごい最初から思えたからこそ、撮影が楽しみだったし、なんか自信がありました」

--どう演じようかとか撮影前は緊張があったというのではなく、楽しみだった?

「はい」

--この作品以外でも、これは大変だな、撮影ではどうしようと思ってしまった作品はあまりないですか?

「でも、なんだろう……、このシーンで、というより、クランクインの前の日は結構寝れなかったりすることが多いです、無意識に。自分としては緊張するって自覚はしてないんですけど……」

--それは新しい役に入ることへの緊張なのかな?

「……ですし、ですし、新しい現場に入るということでも」

--もともと新たに人に会うことが得意ではないという部分もある?

「そうですね、それもあるかもしれません。役としても、一人の人間としても“その環境でうまくやれるかな、明日から……”と。でも、どの作品も最後のほうはすごく楽しいですけど……」

--周りと溶け込むのは、実は自分が思うほど苦手ではないもかもしれない。

「そうですね。その場所にいるなら楽しいほうがいいですし」

--現場のスタッフさんにもフレンドリーに話しかけたり……?

「フレンドリーといえるかどうかわからないですけど、普通にいろいろと話します」

--以前、そういう場で働いている人たちが好きという話をしてくれたけど、そういうのもあるのでしょうね。

「みんなで同じ方向に向かって一つのものを作っていく環境にいる方たち、やっぱりたくさんお話したいなと思えます」

--学校のクラスや一般の会社とかそういう環境の中では多分しんどいのかもしれないけど……。

「そう、合わない。そうだと思います。だから、いい仕事がみつかってよかったなと思います(笑)」

--このほか果歩の見どころとしては……。

「感情的になるシーンに目が行きがちではあると思うんですけど、普段お母さんといるときの果歩と、外で友達といるときとか最初のほうの(クラスメイトで果歩のことを気遣う)輝之と話すときの果歩って、なんか別に喋らないわけじゃないけど、どこかに予防線をはってたり壁を作ってるなと思っていて、それが、こういう環境に置かれている女の子特有のものでもあるんじゃないかなって思うので、そういうところも見てほしいですね」

--果歩として生きているから、そういうシーンの表情や振る舞いも自然にできたのかなと……。

「そうだと思いますね。だから、そこが自分と似てたんだなと思います」

--脚本家さん、監督さんの狙い的にもそこがマッチしたのかも。

「撮影ではあまり“こうしてほしい”とか“こうしましょう”みたいな会話はしなかったんです、監督とは。でも私がやりたいことをちゃんと受け止めて、切り取って果歩を撮ってくださって。なんか、ゆるやかに……、なんていうんだろう……」

--お互いをわかり合ってゴールに辿りついたイメージ?

「そうですね」

--よくあるように、クランクインする前に役についてじっくりと話し合ったというわけではなく?

「……なく、ですね。“果歩をかわいそうという一点だけでは見せたくない”というお話はありましたけど、そういうことくらいでしたね」

--多分、細かく演技の注文を出すのではなく、中井さんが果歩として生きる自然な姿を収めたかったのかも。そのドキュメンタリーを撮っているかのような……。

「そうですね。そうしてくださったのだと思います」

--境遇は全然違うけど果歩にとてもハマっていた。キャピキャピした青春みたいな感じじゃないからハマると思います。

「そう思いました、自分でも」

--……と、いいつつ、

「と、いいつつ(笑)」

--出演中のドラマ『君には届かない。』(TBS)は、すごく青春感ある内容ですね(笑)。

「そうなんです。初めて王道の青春もので役をやりました。楽しみです。完成したものを見るのが」(※取材はオンエア前)

--キラキラ青春ものの中で自分がどう映っているか? そういう雰囲気の中で撮影してみてどうでしたか?

「でも自分が大人になったなと思いました。なんか、ちょっと前だったら毛嫌いしていたものとかをちょっとずつ歩み寄れるようになったりだとか、自分とは近くない役も楽しめるようになったし、逆に自分からどういうアプローチをしていけばいいのか考えながら演じていたので、すごいいい経験になったなと思います」

--客観性みたいなものを身につけたのかな。

「そうですね。自分の環境と遠い、性格的にもあんまり近くない役だと客観性が必要になるのかもしれないですね」

--自分の芝居の幅を広げる意味ではいい経験だったのかも。

「そうですね。“すごく自分挑戦してるな”って」

--ドラマはオンエアで初めて見る?

「そんなんです。怖いです(笑)」

--今までやったことないタイプの芝居だし。

「なんでしょう。すごく、ちゃんとしたいい子で、恋心を先輩に持ってて」

--でも、その相手は男の子のことが好きという……。

「そうです、ボーイズラブの話なんですけど、その一人の男の子のことを気になっているという。なんかラブストーリーじゃないですか(笑)。そういうのも初めてだったので、『サーチライト』の輝之とはラブストーリーじゃないし。それを表情とか感情で見せるというのは、これはどうすればしっかり伝わるのだろうと、それを考えました」

--表情や仕草などでさりげなく恋心を示すような?

「そうです」

--微妙な恋愛の表現のニュアンスを求められるような。

「初々しいような」

--最近は作品の撮影で多忙なようですが、ゆっくり休めたりできてますか? この夏は仕事以外で夏らしいことできました?

「なんか私、1週間休みがあっても1週間くらいだと上手く使えないんですね。2、3週間あったらその中で“こんなに休みあるし、この日くらいはどこかに行こう”となるんですけど……。だから今年も“夏だからこれをしました”というのはなかったですね。普通に友達と遊びに行ったりとかしましたけど」

--たとえば4日間休みができたから、その4日間で旅行に行こうとかはならない?

「ならないですね。10日くらいあって、“じゃあ、そのうちこの4日で行こう”とか」

--夏の大きな花火大会とかにも行くタイプじゃなさそう。

「苦手ですね、人混みがね。人混みの中で花火を見るのは……それなら家にいるほうがいいです」

--前回のインタビューでは読書が好きで、最近は宮本輝さんがお気に入りという話がありました。最近はまたお気に入りの作家に出会えましたか?

「最近は海外の小説をよく読んでいて、トニ・モリスンとか読み始めました。あと宮本輝さんのめっちゃ長いやつ、えっと『流転の海』。すごい長編で、シリーズもので9部構成で。今まで読んだものだと長くても上中下巻くらいですけど、9部もあって……。今2巻目なんですけど先は長い。でも楽しいです。その世界に入ると読み進めちゃうタイプです。読み進めていって、“えっ、こんなに楽しいのにもうすぐで終わってしまう”と悲しくなります」

--好きな本のことを語っているときはすごく楽しそうで、幸せそうですね(笑)。

〈プロフィール〉
中井友望(なかい とも)
2000年1月6日生まれ(23歳)、大阪府出身。「ミスi D2019」グランプリ。これまで映画『かそけきサンカヨウ』、『少女は卒業しない』、『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー 』、『炎上する君』など映画、ドラマ、舞台など多彩な作品に出演。

映画『サーチライト -遊星散歩-』は10月14日、K’s cinemaほか全国順次公開。
出演者、ストーリーなど詳細は公式サイトにて

https://searchlight-movie.com

(c)2023 「サーチライト-遊星散歩-」製作委員会

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