「ミスiD 2019」グランプリで、現在は女優として活躍する中井友望さんが、8月4日公開の映画『炎上する君』に出演している。本作での役への取り組みについて、またちょっと謎めいたところがある彼女のプライベートについても語ってもらった。
⻄加奈子氏の短編小説をふくだももこ監督が、うらじぬのとファーストサマーウイカという個性派の二人の共演で映画化。原作小説で描かれた“ルッキズムに傷つく二人の親友同士が、足元が燃えている男の噂を聞きつけ探し始める”という骨格はそのままに、映画では女性への抑圧に日々絶望しながらも自由と解放を追い求める主人公・梨田と浜中が、無自覚な差別や偏見、ラベリングに傷つく人たちを救っていく姿を通して、新しい連帯の形を提示している。
中井さん演じるトモは、バンドのボーカルを担当する女性。ライブの打ち上げの居酒屋でメンバーたちから自身の恋愛経験などについて勝手なラベリングをされて傷ついているところを、偶然出会った梨田に励まされる。
--居酒屋でメンバーたちから過去の恋愛経験を聞かれて、トモは「彼女ならいたことはある」と告白する姿が印象的でした。今回のトモの役柄を聞いて、どんな印象でしたか?
「設定だけ聞くと、女性が好きな女の子でそれを人に打ち明けたりして、重かったり硬く聞こえるかもしれないんですけど、トモは『女性が好き』と思って生きてきたというのではなく、たまたま好きになった子、たまたま付き合ったことがある人が女の人だったというだけなので、ごく自然に、あんまり深く考えすぎないようにしたというか……。でも何か自分の秘密を人に打ち明けるときってすごく勇気がいると思うし、それって誰でも経験することじゃないですか。その不安とか緊張する気持ちは、自分の経験とも照らし合わせて考えたりもしました」
--トモの出演シーンで、表に出ている部分、脚本に書かれている部分は多くないですけど、演じるにあたって、脚本には書かれていない部分、たとえばどんな性格で、なぜこのバンドを組むようになったのか……みたいなことは自分なりに考えたりしましたか?
「それは本読みのときに、監督も含めてバンドのメンバー役のみんなで考えていました。“なんでバンド組んだんだろうね”とか“どういう歌を歌うんだろうね”とか」
--ちなみにどういう系統の音楽をやってる?
「話に出たのはJUDY AND MARYのカバーとか。あと、“わりと最近バンドを組んだんだろうね”と話したり」
--トモは“バンド仲間から“恋愛経験が乏しいから、ボーカルに艶がない”みたいなことを言われます。
「艶がないことに否定的というのが……。艶がなかったらダメなの? 艶っぽくなくても魅力的な歌声っていっぱいあるけど、艶っぽいのだけがいいと思っていて、自分がいいと思うもの以外は否定するというのは偏っているなと思いました」
--昔気質のベテランの演出家などで若手女優に対して「君は恋愛経験が乏しいから芝居がつまらない」とか言う人もいます。一方向的にはそういう見方もなくはないと思いますが、人の心を打つ芝居の形っていろいろあります。でも劇中のように、20代くらいでそういうことを言う人って、ただ言いたいだけっていう気が(笑)。
「自分は知ってるぞ、みたいな(笑)」
--そういう薄っぺらさも感じましたね(笑)。
「最終的にはトモに対して『君は何も悪くない』と肯定してくれる人、真正面から言ってくれる人に出会えたんですけど……」
--うらじぬのさん演じる梨田さんですね。
「はい。それまでは自分が一番不安だったと思うんですよ。自分は人から認められる人じゃないと思っていたりだとか、不安だからちょっと一歩引いたりだとかおとなしくなったりするのかな……と」
--ご自身の生活の中で自信が持てないときに励ましてくれる人や存在ってありますか?
「人からの直接の言葉じゃないんですけど、一番大きかったのは、この映画の原作の西加奈子さんの本を読んでいて、その小説の言葉にすごく救われてきました。すごく心に残ったセリフは携帯にメモしています」
--たとえば、どんな作品のどんなフレーズ?
「えーっと、『きりこについて』という作品の『自分のしたいことを、叶えてあげるんは、自分しかおらん。』 という文章や、『誰かに「おかしい」といわれても、「誰か」は「自分」ではないのだから、気にしないこと。』…… とか、いろいろとあります」
--劇中、梨田さんに言われた「君は何も悪くない」に通じる部分も?
「西さんが描く、肯定してくれるキャラクターに惹かれます」
--西さんの小説はもともと好きだった?
「今作の監督のふくださんに教えてもらったんです。そこから読み始めて、めっちゃ好きになって、西さんをきっかけに読書が趣味になりました。それまで本とかあんまり読まなかったんですけど……」
--今回の役柄は20代前半?
「そうですね」
--まだ確固とした自分がわからない時期ですよね。
「そんなときに、自分のことを肯定してくれる梨田さんに出会えて幸せだと思います」
--ラストシーンではとてもインパクトのある形で登場していますね。主人公の二人を中心に観る人にも希望を与えてくれるような……。
「実はラストシーンが一番最初に撮ったシーンだったんですよ」
--えっ、それだと気持ちの作り方がなかなか難しかったのかも?
「撮影のとき、監督と梨田役のうらじぬのさんが考えてくださって、その場で即興で『君は悪くない』とうらじぬのさんが言ってくださったんですよ。その瞬間にすごく心が震えて。それで、その思いのまま撮れたラストシーンになりました。本当にうらじぬのさんのおかげだなと思います」
--一人だけで撮ってたら、なかなかそういう気持ちになれなかったのかも。
「そうですね」
--これまで出演した作品の中でも、今回の作品は演じる楽しさや相手とのやりとりで心が震えるということがわかった、いい経験になったのかもしれませんね。
「めっちゃ、そうでした! すごく大切な作品になりました」
--ところで仕事が休みのときなどは、どんなことをして過ごしてますか?
「映画を観たりとか……」
--やっぱりプライベートでも映画は好き?
「好きですね。あとは本を読んだり」
--西加奈子さんきっかけで広がって……。
「はい。最近だと宮本輝さんとかめっちゃ好きです」
--世代的に珍しいと言われますよね?
「そうですね。でもめっちゃ面白いです。好きになったきっかけは、本屋さんで名作の特設コーナーってたまにあるじゃないですか。そこで宮本輝さんの作品を扱っていたのを見た気がします」
--読書したり、一人で過ごすことも全然楽しめるほう?
「楽しめます。一人で旅行に行ったりもします。この前は金沢とか石川県のほうに行きました」
--それってTHE観光地みたいなところ?
「誰もいない海辺に行って、岩みたいなのを見に行きました」
--筆者も、観光地でも何でもない海辺の街、ただ日本海が広がっているようなところに一人で行ったりするのが好きです。
「日本海、見に行きました、いいですよね!」
--むしろ一人が好き? 集団で旅行に行くよりも……。
「集団で行くより一人のほうが好きです(笑)」
--たとえ親友2、3人との旅行ででもどこかで妥協しなければならなかったりします。
「自分がしたいことを自由にできる旅がいいです。地方で路線バスを乗り継いだりというのもいいですね」
--そういう嗜好だと、人がたくさんの撮影現場で大変じゃない?
「学生時代、学校生活がすごく苦手で、それに比べたら楽しいですし、何より自分が好きなお仕事ですから」
--そうか、根本的に好きというのが大きいですよね! 学校は好きでなければツラいだけですからね。こっちは好きな場所だから。
「そうですね、逆にほかの環境は難しいかもしれません」
--たとえば一般の会社勤めをしたり。そっちのほうがもっと大変なのかも。
「そうですね」
--女性社員同士の人間関係に気をつかったり。
「そんなのはできない(笑)」
--むしろ自分に合うベストな場所を見つけたという感じかもしれませんね(笑)。今後もお芝居を?
「はい、やっていきたいです」
--今後こんな作品に出てみたい、というのはありますか?
「舞台は何度かやったことがあるんですけど、めっちゃ楽しかったのでまたやりたいですね」
--舞台にせよ映像にせよ、内容的には、学生の青春ものであれ、社会派の作品であれ、どんなジャンルでも?
「はい。チャレンジしたいです」
--まだ学生役も大丈夫ですね。
「学生役のほうが多いです、まだ」
--年齢より若く見えるし。
「はい。よく言われるので、まだ何年かは大丈夫です(笑)」
--今後いろんな作品で見られることを楽しみにしています!
〈プロフィール〉
中井友望(なかい とも)
2000年1月6日生まれ(23歳)、大阪府出身。「ミスi D2019」グランプリ。これまで映画『かそけきサンカヨウ』、『少女は卒業しない』、『ベイビーわるきゅーれ2 ベイビー』など映画、ドラマ、舞台など多彩な作品に出演。2023年秋には初の主演映画『サーチライト -遊星散歩-』が公開予定。
映画『炎上する君』は8月4日、渋谷シネクイントほかで公開。
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