【木下愛華インタビュー】すず役を務める舞台『海街diary』が再演「初演以上に初めて台本を読んだ時の直感を大切に」

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木下愛華
木下愛華

NHK Eテレ『Rの法則』でも活躍中の女優・木下愛華さんが10月6日から東京・紀伊國屋ホールで再演される舞台『海街diary』に初演に続き出演する。吉田秋生氏による人気コミックが原作で、綾瀬はるかさんら出演の映画でも話題になった本作、その舞台化作品となっている。木下さんが演じるのは三人の姉の異母妹・すず役。今回、再演への意気込みのほか、女優活動を始めたきっかけや今後への意気込みについても語った。

 --久しぶりに『海街diary』の稽古の現場に入って感触はいかがですか?

「再演が決まった時に久しぶりに台本を読み返して大丈夫かなと思ったんですけど、稽古を始めたらスムーズにセリフなどが蘇ってきました。初日から楽しめました!」

--それは再演ならではのことですね。

「セリフに追われる状態じゃないのがありがたかったです」

 --初演(今年3月~4月)時の主要キャストの四姉妹(山崎真実、柳ゆり菜、門前亜里)ももちろん同じで。

「はい、嬉しかったです!」

 --一緒にやってきて絆ができた4人だから、最初から入っていきやすかったかもしれません。

「それも再演のいいところだと思います。家族のお話なのでこれからも公演を重ねるたびに絆が深まっていく感じで」

 --舞台はある程度期間があるので、初日と千秋楽近くではそういう“絆”感も変わってくるのかもしれません。初演時にもそれは感じました?

「稽古中もそうなんですけど、それは本番では特に感じました」

--今回で“すず”ちゃんを演じるのは二度目になります。

「中学生なのに大人びた性格にならざるを得ない境遇の女の子なんですが、それと比べて自分の中学生時代までのことを考えると、周りに恵まれていたし愛情を受けてぬくぬく育ってきた気がします。その孤独感はすずちゃんの役に出会うまでは考えたことがなかったというか、この年齢にして自分とはかなり違うなと感じました」

 --演じるにあたって心掛けたことは?

「お芝居をする時に毎回こういうふうにやっているという決まった演技プランがあるわけではなくて、役柄などによって変わったりするんですけど、すずちゃんは自分の境遇とは違うけど共感しやすい役柄ではあるので、読んだ時の直感を大事にして演じました」

--すずの場合はすっと役に入っていくことができた?

「はい。初演の時には、最初の感覚を生かしてそれを広げていく形でした。とはいえ、抱え込んでいるものがすごく大きい子だからこそ、さらに直感を大事にしなければと思いました。あとから振り返ると、考え込んだ部分もありました。大人びたすずちゃんが、等身大の中学生らしく感情をさらけ出す場面とか。もっと台本を読んだ時の気持ちをそのまま出せたらいいなと思ったので、今回再演でそれを生かせたらいいなと思います」

--それができるのも再演の良さではありますね。

「本番が終わってから『こうすれば良かった』と思うことが結構あったので、再演ってそれを直接活かせるじゃないですか。終わってから客観的に見られたものを、今回の再演で出していきたいと思います」

 --映画でも話題になった本作ですが、映画版との違いは?

「ダンスや歌もあって、賑やかでエネルギッシュで、よりエンターテイメント性が強い作品になっています」

 --映画版では抒情的な雰囲気の映像が印象的でしたが。

「はい。そのイメージを持って観に来ていただくと、びっくりされるかもしれません。別物として楽しんでいただけるといいなと思います。穏やかな場面もあるんですけど、エネルギッシュな場面とのメリハリが見どころです。また、シーンの入れ替えがすごく多い。何年分のエピソードをぎゅっと凝縮されているのでテンポがはやいです」

 --木下さんはもともと歌やダンスの経験はあったのですか?

「演出の森岡利行さんの作品には以前にも出させていただいていて、その時に歌とダンスも経験させていただきました。四姉妹で歌って踊る曲があって、その曲は4人とも特に気に入っています」

--若手の木下さんにとって紀伊國屋ホールの舞台に立つというのも貴重な経験ですね。

「はい。演劇をやっている人にとって憧れの場所なのでありがたいなと思います! 初演の時の新国立小劇場に続いていい経験をさせてもらっています。初演の時は実はカーテンコールまではあまり意識しなかったんですけど、終演してから“こんなにも多くのお客さんに観ていただいてたのか”と、そこで初めてハラハラしました(笑)」

--さて、そんな木下さんですが、もともと芸能活動を始めたきっかけは?

「中学3年生の時、お母さんと東京に遊びに来ていた時に原宿の竹下通りでスカウトされました。その後高校入学と同時に上京してきて、基礎からしっかりレッスンを受けさせていただきました」

 --スカウトされたのはその時がはじめて?

「はい、もうびっくりしました! とにかくその場から逃げたくて。押しが強いスカウトの方だったので(笑)。でもお母さんも一緒だったし“土産話くらいになればいいか”というくらいの気持ちで事務所に行って、ドキドキしながら話を聞いていました。でも、きちんとした事務所だったので安心しました」

--レッスン期間を終えて、デビューしたのは?

「昨年のはじめくらいに、NHK Eテレの『Rの法則』と、舞台のオーディションにほぼ同時に決まりました。私、一番最初の舞台のオーディションでやらかしちゃって。時間に遅れた上に、指示された稽古着を忘れて、制服のままオーディションを受けていたんです。だから、もうダメだって、すっごい落ち込んだんです。人生でこんなに落ち込んだのは初めてというくらい。受かったと聞いて、本当に“謎”でした(笑)」

--その初めての舞台というのは?

「『ぼくんち』という作品で、東京芸術劇場の舞台に立たせていただいて、本当に楽しかったんです。初舞台だったんですけど、緊張はまったくなかったです。とにかく楽しかったです!」

 --それって怖さを知らないからこその楽しさで、それ以降に出た舞台で悩んだり壁にぶつかったりしたことも?

「いえ、今まで壁にはぶつかったことはないです(笑)」

 --(笑)。最初の勢いのままここまで来ている感じ?

「初舞台の時にはスタッフの方がとても熱心に指導してくださって、『これだけ稽古をやったからもう大丈夫だ』という安心感があったからかもしれません」

 --でも自分では意識しないところで、ぶつかった壁を乗り越えてきたこともあったかもしれません。

「乗り越えたという実感があまりなくて、人から言われて気づくこともあります。時には、どうしていいか悩むこともあって、後ろ向きというか自信がない方向にいくこともあるんですけど、寝たら前向きになれる性格で(笑)」

 --それ大事なことです(笑)

「だから、本番は基本的には楽しく終われますね、反省点はもちろんあるんですけど」

--共演者やスタッフさん、周りに恵まれているのかもしれませんね。

「本当にそれはありがたいです」

 --それは木下さんの、愛され妹キャラによるところも大きいと思いますが、実生活でも妹?

「はい、実生活ではお兄ちゃんがいて妹です。お兄ちゃんは私のことが大好きで(笑)、いつも舞台を毎回観にきてくれてしかも毎回泣いてくれます」

 --いいお兄ちゃんです(笑)。

「年が5つくらい離れているので可愛がってくれるし、あと距離が離れているのも逆にいいと思います。地元で一緒に住んでいる時より、今の方が仲がいいですから」

--10月からドラマ『BORDER衝動~検視官・比嘉ミカ~』にも出演が決まったとのことで。物語の中の事件に関わる女子中学生役ということですが。

「はい、ドラマの現場は2回目です。撮影のテンポが速くて、最初はとまどいました。じっくり作ることができる舞台とは違います」

--現在高校3年生の木下さんですが卒業後は?

「進学はせずに、今のお仕事一本で頑張る予定です。学生だからと自分に言い訳ができない状態に追い込んで頑張りたい。学校生活がなくなるということで、自分の中でさらに仕事が占める大きさを実感すると思うんです。不安ではありますけど、楽しみでもあります。学業のことを考えずに専念できるので」

--やりがいのほうが大きい感じですね。 もし仕事がない時期ができたり追い込まれた状況になっても、『どうしよう』とあたふたとはならないタイプ?

「いや、なりますね(笑)。なるんですけど、10代のうちは精神的に鍛えたいので、若いうちに厳しい境遇に自分から飛び込んでいきたいと思います」

--最後に女優としての今後の目標を。

「今は一つに絞るのではなく、いろんなことに挑戦したいです。今までシリアスな役やおとなしめの役が多かったので、コメディなどもやってみたいです。自分が苦手と思える分野にもどんどん飛び込んでいって幅を広げていきたいです。今はまだ苦手なことが多いので、現場でどんどん鍛えられたい。叩かれてもくじけない!何でも来いです!!」

〈プロフィール〉

木下愛華(きのした・まなか)

生年月日:1999年9月17日

血液型:B型

出身地:大分県

趣味:旅行、歌うこと、音楽鑑賞、DVD鑑賞、バドミントン、バスケットボール

特技:和太鼓

現在、NHK Eテレ『Rの法則』に出演中。これまで映画『人狼ゲーム マッドランド』、舞台『Nana Produce vol.7「どんどろ」』、『へなちょこビーナス』(※主演)、『アオイの花』などに出演。

 

舞台『海街diary』

10月6日(金)~8日(日) 東京・紀伊國屋ホールで上演

吉田秋生氏のベストセラーコミックを舞台化。幸、佳乃、千佳の三姉妹の元に父の訃報が届く。そして幼い頃に別れたきりだった父が遺した“異母妹”のすずを迎えることになる。四姉妹の共同生活は、それぞれに少しずつ変化をもたらし、4人は本当の家族になっていく…。今年3月からの新国立劇場・小劇場で上演され、早くも再演が決定した。