【川床明日香・新谷ゆづみ インタビュー】映画界の性暴力問題 を取り上げた注目作『ブルーイマジン』に出演 性被害と向き合う女性たちを体当たりで演じる
映画監督から過去に暴行を受けたことを誰にも言うことができず自身の気持ちと葛藤する若手女優・乃愛(のえる/山口まゆ)を中心に、駆け込み寺的な存在のシェアハウス「ブルーイマジン」に集まる人たちが、自身の性被害を乗り越えようと奮闘する姿を描く……この注目の映画『ブルーイマジン』で、乃愛の親友で、自身の音楽仲間も暴行を受けたという佳代役を演じた川床明日香さん、女優を目指して上京して頑張っているが、ワークショップで出会った映画監督に暴行を受けてしまう凛役を演じた新谷ゆづみさんにインタビュー。ハードな題材の作品、役柄に取り組んだ思いを語ってくれた。
--まず、この作品に出演が決まったときの思いを教えてください。
新谷ゆづみ「まず、こういう問題がどんどん表面に出てきている今のタイミングで、この作品を作ることになったということが、私としては大きなことだと思っています。遠回しにさらっと問題に触れるような作品じゃなくて、ちゃんと取り扱った、避難所となる『ブルーイマジン』を題材にした作品ができるということが、大きなきっかけになるんじゃないかと思って、すごく前向きで、ポジティブな感情を抱きました」
--その上で自分がキャストとして出演し、役を演じていかがでしたか?
新谷「私が演じる凛は性被害を受けた女の子。女優を目指して頑張っているという立ち位置など自分と重なる要素が結構あって、演じていてつらい気持ちになることがたくさんありました。でも凛は弱いままで終わらない。この作品自体、そこが救いというか、最後自分たちの意志を行動に移せたということで、暗闇の中にも光を感じました」
川床明日香「私はまず、この性被害の問題についてこれまであんまり身近に感じたことはなく、どこか他人事のように思っていたのですが、自分にとってもあり得る話かもしれないという、問題の身近さに気づかされました。乃愛(山口まゆ)もそうですし、負った傷をどうにかしようと闘いながらも前に進んでいく姿に勇気をもらえる、そういう人が一人でも増えたらいいなと思います」
--あまり身近に感じたことがなかったということで、事前に役を演じるにあたって、この問題について勉強したりも?
川床「まずどういった事件が起こっているのかを知るところから始めました。私が演じる佳代も、被害に遭った友達の気持ちを思って、その心の傷を知るためにいろんなことを調べたり、考えたりしたんじゃないかなと思ったので、そういうことも考えながら……」
--佳代と川床さんの、問題との接し方がリンクしていたのかもしれません。
川床「そうですね」
--佳代自身は被害を受けていないけど、親友の乃愛と音楽仲間の友梨奈(北村優衣)が性被害を受けている。そばでそれぞれの精神的な支えになって寄り添いつつ、ともに加害者や問題に立ち向かっていきます。
川床「佳代はすごく優しい人で、私には持っていない、強い優しさがあると思うし、自分のことよりも誰かを思うことが根本にある子なので、そこは自分も真似したいなと思いました。尊敬できるところです。乃愛も友梨奈も被害を受けている。自分は受けていないという立場で、相手との距離感を感じて苦しい部分はありました」
新谷「凛は本当にけなげに夢を追いかけていて、頑張っていたからこそ……。ただまっすぐなだけなのにな、と思って」
--まっすぐなゆえに……というところもあるのかもしれません。悪い映画監督の標的になりやすかったのかも……と。
新谷「自分と重なる部分が多すぎて、演じていてやっぱりしんどかったですね」
--凛も地方から出てきている?
新谷「はい、お父さんもお母さんも応援してくれているから、頑張れていて」
--やっぱり結構重なりますね。
新谷「そうなんです。だからもし自分がそういうことになったときに、親に言えるかなと考えたりして、確かに言えないかもなと思ったり。やっぱり誰かに言いたいけど、誰に言っていいかわからない。そういう思いはきっとあるよな、と思っていたところ、『ブルーイマジン』という場所に救われて……。自分の言いたいことを溜めてきて自己完結しようと、辛い思い出に蓋をしようと頑張っていたところ、やっと誰かに開くことができた。“よく言えた、よかったね”って、ほんとに思いました」
--この作品に限らず自分に近い役で、ハードな役を演じるときは、心にずどんと役がのっかっかてくる感じはある?
新谷「あります。あります」
--役に入ってるときは周りともあまり話せなくなったり?
新谷「そのときはそこまで感じなくて、撮影期間が終わってからそのこと気づいたりします。演じるときは、自分が過去に経験したことと、違う出来事でも似ている部分と紐づけたりしながら、感情をみつけていくという作業をしていて、違うことなのに一緒のことのように感じたりして、それが結構ありますね」
--それは今回の作品でも?
新谷「そうですね。似ているつらい出来事を探しているうちに、昔の嫌な思い出の蓋が開いたりしたときは(笑)、結構しんどいですね」
--その蓋はほんとは開けたくないけど、開けざるを得ない。
新谷「でも、それは凛が自分の被害を人に言えたということと一緒のような気がして、凛の気持ちがそれによってよくわかる気がしました」
--嫌な思いもそうだし、それがきっかけで少しは霧が晴れたような思いも?
新谷「過去というのは変えられないから、それを力に変えるには自分で言ったり誰かに相談することによって力になるなと思って、自分の中で自己完結するというのはやっぱりなかなか難しいから……」
--佳代は友達を支える立場で、被害に遭った友達の精神的な支えになりますが、こういう出来事に限らず、そういう思いや経験はありましたか?
川床「私の友達も、悩んでいる最中というより悩みきったあとに話してくれることが多いので、どんなことがあったにせよ、それを言えない期間に支えたかったなと、乃愛や友梨奈に対しても思いました」
--親友だから言いたいけど、親友だから言えないというのもあります。
川床「そうですね、大事な人だからこそ言えないこともあるし、大事な人だから言ってほしかったという思いもあるし、そこはすごく共感できるなと思いました。」
--もし自分が佳代だったら……
川床「支えたいですし、乃愛が自分に言えないほど傷ついていたことが悔しいと思うし、悲しかったんじゃないかなと思います」
--「なんで言ってくれなかったの?」という思いと……、
川床「それくらい苦しんでいたんだと、佳代は乃愛の苦しみい思いを感じたのではないかなと思います」
--ところで二人は今回の作品で初共演?
二人「はい!」
--同じ事務所でお互いの存在は知ってましたか?
新谷「もうかれこれ10年くらいは知っていて……」
--そうなんだ! 世代も同じですからね。
新谷「そうですね、一個上だっけ?」
川床「私が一つ上です」
--事務所の演技レッスンやワークショップで一緒になったり?
川床「はい」
新谷「あと寮も一緒で」
川床「お仕事を始めたのも一緒の時期だったので、顔見知りではありました!」
新谷「ただ、仕事を一緒にしたことがなかった(笑)」
--この世代は新谷さんのように「さくら学院」(アミューズ所属の小中学生女子によるグループ。2021年活動終了)を経由する人も目立ちますが、川床さんはそうではなかった?
川床「私は『ニコラ』の専属モデルを高校1年生までやって、そのあとお芝居をやりたいなと思い、今に至ります」
--それぞれの作品も見たり?
新谷「私はよくニコラ見てました(笑)。そのイメージのままでお互い止まっている気がする。レッスンとか一緒だったから、一緒に仕事をする日がついに来てすごく嬉しいです」
川床「そうだね。けど、この撮影をしていたときはそういうことはあんまり考えてなかったよね(笑)」
新谷「うん、考えてなかったけど、この前試写を見ていて、“そういえば出会ってから長いな”と思って(笑)。嬉しかった」
--映画のテーマは重いけど、お互いまったくの初めましてじゃないから、入っていきやすかったのかもしれない。
新谷「そうですね」
川床「ゆづみちゃんをずっと知っているから安心感がありました。、凛と佳代としても安心して接することができたのかなと思います」
新谷「私も思いますね」
--山口さんとは初共演?
川床「はい。ずっとご一緒したいと思っていたので、すごく嬉しかったですし、一緒にお芝居できるのが楽しみでした」
新谷「表情や動きなどすごく繊細なお芝居で、今回の乃愛の役に、役とまゆちゃん自身の人物像にときどき重なって見えて、見てて素敵なお芝居だなと思いました」
--今回監督がこういう作品を作ったり、それ以外にも、実際に映画監督が過去の性加害の容疑で逮捕されるというニュースもあったように、決して被害者が泣き寝入りのまま終わらない、世の中が徐々に動いてきている感じはあります。この作品を経験してこういう話題を周りの人と話すように?
川床「撮影期間中に、“もし自分にもこういうことが起こったら怖いよね”という話はしました。そんなことが起こらないよう、に自分でも気をつけないといけないなと思います」
--これまでの出演作の中でも、自分の中で大きな作品になったようですね。
川床「私は試写を観たときに、声を上げることもそうですし、その人を支えることにも必要な勇気をもらえたと感じました。自分の中で誇れる作品になったなと思います」
--自分の役に限らず本作において、こういうところを見てほしいというところは?
新谷「こういう経験がある・ない、どちらにせよ、この作品が生み出されたということで救われる人がいたらいいなと思うし、もしこういう問題についてまったく身近じゃない、という人にとっても知るきっかけになったらいいなと思います。身近じゃないと思っていてもどうしても身近になってしまうことだと思っていて、自分で危機感を持つことも大事だし、させないことも大事だし、自分でバリアを張るというのも大事。もちろん加害する側が100%悪いんですけど、だけどいろんなことを知って考えるきっかけになってくれたらいいなと思います」
川床「私はこの作品に出会うまでは、こういう問題を身近に感じることがなかったので、この作品を観て、自分にも起こりうることなんだと考えるきっかけになったらいいなと思っています。私は女の子たちが逆境に負けずに自分の未来へ向けて頑張っていく姿が好きですし、勇気をもらったので、そういうところにもぜひ注目してもらいたいなと思います」
--最終的には光が見える、救いがあるところがいいですね。幅広い人の背中を押せるのかもしれないです。
二人「はい!」
--本作以外の話題も少々うかがいますが、まず新谷さんは昨年初舞台にして初主演の作品『怪獣は襲ってくれない』に出演されましたが、本作が今月29日より下北沢K2で映画として上映されます。
新谷「新宿・歌舞伎町の“トー横キッズ”を取り上げた作品で、あの舞台で作り上げた空間をそのまま映画館でもう一回見られる機会ができるというのがありがたいです。“トー横キッズとはなんぞや”という人から、もともと知っていたという人まで、その少年少女たちの心の内がじわじわと溢れ出る、大胆かつ繊細な舞台になっていると思っていて、映像で観るとより細かい部分も感じられると思うので、ぜひ劇場でも観ていただきたいです」
--そしてメインキャストの一人として出演した映画『ただ、あなたを理解したい』が公開中です。
新谷「これはまた全然違うテイストの青春群像劇で、愛知の蒲郡でオールロケで撮ったんですけど、人と人との繋がりを題材にした作品です。私は主人公の男の子(鈴木昂秀)の彼女役で、主人公が地元に帰って過去を思い出しつつ、今の現実とも向き合う。私が演じる葵は東京出身なんですけど、彼の帰省に一緒について行きます。私はただ彼を理解したいという気持ちなのですが、登場人物がそれぞれの立場で相手を理解したいと願うお話です」
--特に舞台『怪獣は〜』は自分の立場とは全然違う役柄、一方今回の『ブルーイマジン』は自分の境遇と近い作品。どちらが演じやすいかというのは、やっぱり立場が近い作品のほうが?
新谷「『怪獣は〜』の役柄については、境遇だけでなく、もともと持っている性格が自分とは真逆ですので、難しかったですね」
--自分に近い役のほうが、心にずどんとはくるけど、やりやすい?
新谷「それはそうですね。自分の過去の経験から紐づけて演じたいと思うタイプなので」
--舞台のときは、自分の引き出しの中には全くない状態から……、
新谷「うーん、ゼロではないですけど、たとえば反抗期とか親に対する気持ちとか、あとは『子どもだから……』という理由で大人から指導されたときの反発心とか、そういうのはあったんですけど……でもやっぱり難しかったです」
--引き出しの隅のほうから集めてくるみたいな作業を?
新谷「そうですね。かき集めてくるみたいな(笑)」
--川床さんはドラマ『先生さようなら』(日本テレビ)がオンエア中です。主人公の先生(渡辺翔太)のことが好きなあまり、先生が目をかけるクラスメイトにキツくあたる女子生徒役ですが、川床さんは顔立ちが可愛らしいというよりクールでキレイなタイプだから、キツイ役柄がハマりますね。
川床「今回初めてこういう役を演じました。今までは幸が薄い、物語の序盤に死んでしまうような役とか悲しい役が多かったのですが、今回は悪い子というか、(先生への)思いが強すぎるゆえに、ヒロインの女の子に意地悪してしまうような子です」
--やっぱり素の自分と近いほうがやりやすい?
川床「そうですね。今回初めての役柄だったので、どう演じたらいいんだろう、と最初は結構困惑してしまって。リハーサルで、『もっとやっていいよ』と監督から言ってもらえたときに、私はどうできるんだろうとさらに考えました。監督をはじめスタッフの方々と丁寧に『ここはこういうふうにやって』と一つ一つ話し合いながら撮れたのはすごくよかったなと思います」
--ただキツイことを言うのでなく、繊細な気持ちがあって……。
川床「そうですね。なんでこうなるのかという理由を話し合いながら撮ることができたのがよかったです」
--ある意味ヒロイン役より難しいかもしれません。
川床「表情や話し方は、今まで自分がやってきたこととは違うことをしなければと思いました。表情や仕草について内面からアプローチするのではなく、外からアプローチするのは初めてだったので挑戦でしたが、楽しくもありました」
--内面から出るナチュラルな芝居だと、見え方として伝わりにくいかもしれませんからね。
川床「はい」
--それぞれ今後挑戦したいことってありますか?
新谷「私は、舞台はまたやってみたいです。あと今まで学生の役ばかりだったので働く女性の役にも挑戦してみたいです」
--まだ学生の制服姿がよく似合いますからね。
川床「私も舞台に挑戦したいです。舞台はやったことがなくて。ずっとやりたいなと思っています」
--お二人のこれからの活躍にも期待してます!
(プロフィール)
川床明日香(かわとこ あすか)
2002年7月10日生まれ、福岡県出身。2014年「ニコラモデルオーディション」でグランプリを受賞し同誌専属モデルとしてデビュー。2019年に卒業後は主に女優として活動。これまで映画『沈黙のパレード』(2022年)、ドラマ『先生さようなら』(2024年)などに出演。このほか2024年は公開待機作が3本予定されている。
新谷ゆづみ(しんたに ゆづみ)
2003年7月20日生まれ、和歌山県出身。2014年少女漫画雑誌『ちゃお』(小学館)主催の「ちゃおガール2014☆オーディション」で準グランプリを受賞したことをきっかけに芸能活動を開始。2016年「さくら学院」のメンバーに加入、2019年3月まで在籍した。その後本格的に女優活動を開始。映画『麻希のいる世界』(2022年 ※主演)、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(2023年)、『ただ、あなたを理解したい』(2024年)、舞台『怪獣は襲ってくれない』(2023年 ※主演)などに出演。
映画『ブルーイマジン』は3月16日、新宿K’s cinemaほか全国順次公開。このほか詳細は公式Xにて。
Tweets by blueimaginefilm
配給表記 :コバルトピクチャーズ (c)Blue Imagine Film Partners
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