【小芝風花インタビュー】『ふたりのキャンバス』でドラマ初主演「“普通”の高校生が原爆と向き合っていることが伝われば」

ニュース 女優 映画・ドラマ
小芝風花
小芝風花

女優の小芝風花さんが8月1日(中国地区)、5日(全国)にNHK(総合)で放送されるヒロシマ8.6ドラマ『ふたりのキャンバス』でドラマ初主演する。本作は、広島市立基町高校で10年前から行われている、高校生と被爆体験証言者による「原爆の絵」の取り組みを題材に、自らの想像を超える体験をした人をわかろうと努力することで成長していく高校生たちの姿を描く。小芝さんが演じるのは、クラスメイトの影響で「原爆の絵」に参加する里保。「原爆の絵」を通して被爆者の遠藤雄造(近藤正臣)との交流を描く。今回、小芝さんが原爆を題材にした作品で演じるにあたっての思い、そしてテーマである人とのコミュニケーションについて語ってくれた。

 --念願のドラマ初主演ですね。

「はい。最初主演と聞いてすごく嬉しかったんですけど、原爆を題材にした作品ということで、『どういう作品なんだろう』『私にできるかな』というプレッシャーや不安がありました。でも監督さんから『原爆というと重く捉えられるかもしれないけど、この作品は今の高校生が原爆の話を聞いてどう感じるかというのが大きなテーマだから、重く捉えないでほしい』とアドバイスされ、気持ちを切り替えました」

 --「原爆の絵」という取り組みについては知っていましたか?

「この作品と出合うまで知りませんでした。私よりも年下の高校生たちが原爆と向き合って、次の世代のために絵にして残そうと取り組んでいるんだという、その事実がすごく衝撃でした」

 --撮影前には基町高校の生徒たちにも会ったんですよね。

「はい。みんないたって普通の高校生なんです。明るく元気で。でも見せてもらった絵はすごく迫力があって恐ろしい絵。この子たちがこの絵を完成させるというのがイコールでつながらなくて。原爆のお話というのは、聞かせてもらうほうもエネルギーを消費する。高校生の子たちが1年間も原爆について向き合うというのはとても大変なことで、私なら参加できるだろうかと考えました」

--里保は気軽な感じで“原爆の絵”を描き始めますね。

「はい、『憧れの女の子がやるから、私も描くよ』という軽いノリで。参加している高校生の中にはいろんな動機の子がいるらしくて、里保みたいに何気なく参加する子もいれば、自分を変えたくて参加する子もいたり、ほんとに普通の子たちがこういう取り組みをしているんだよと伝わればいいなと思います」

--特別に問題意識が高い子ばかりというわけではなく…。

「はい。里保はどこにでもいそうな、普通の子。そういう子だからこそ、いろんな人に共感してもらえるんじゃないかなと思います」

 --ドラマでは、被爆者の方とのコミュニケーションとともに、友人とのつながりについても描かれます。共に原爆の絵を描いている友人の奏美(中村ゆりか)との関係にとまどう場面も。お互いの気持ちがうまく伝わずに、関係がぎくしゃくしてしまいます。

「私も高校時代、同じように悩んだことがありました。どうしても全部を理解することは難しくて。でも『わかんない、いいや』じゃなくて、仲良くなるために理解したいと、一歩踏み込みたい。番組のテーマである『わからないけど、わかりたい  伝わらないかも、でも伝えたい』は、被爆者の方との関係だけじゃなくて、いろんな人間関係に対して共通していると思うんですよね」

 --被爆者の方とも撮影前にお会いされたんですね。実際にお話を聞いてどう思いましたか?

「被爆者の方から『どう思う?』と聞かれても何も言えなくて…。想像をはるかに超える出来事に唖然として、あと、変なこと言っちゃったらどうしようという思いもあったし…。でもほとんどの人がそうだと思うんですよね。『これ聞いていいのかな』とか『どういう聞き方すればいいんだろう』ととまどってしまうと思います。この気持ちを忘れちゃダメだ、この気持ちをそのまま役に生かしたいと思いました」

 --里保が被爆者の遠藤さんとのコミュニケーションにとまどう場面もありますが、考えてみると、高校生が親族以外で人生の大先輩と向き合って話すことってそうあるものではない。大人とのコミュニケーションって大変だと思います。小芝さんは高校生の頃にはもうこのお仕事をしていたと思いますが、スタッフさんや周りの大人とコミュニケーションをとるのに難しいなと思った経験は?

「私、今もなんですけど、思ったことをはっきりと言えないんですね。たとえば『もうちょっとこういうふうな言い方にしてほしいな、すごく冷たく聞こえるから』などと思っても、はっきり言えずに、その場では笑ってごまかしてしまうんです。でも私の中ではモヤモヤがすごく溜まっていて。言うタイミングを逃して、あとから『今むしかえして言うのもなあ…』と思って、結局言えずじまいに。でも言わなきゃ伝わらないんですよね」

 --きっと自分の様子で相手が察してくれるのでは…と思いがちで。

「はい。それを母によく注意されて。『エスパーでもなんでもないんだから、言わなきゃわからないよ』って。でもそれはなかなか難しくて。だから、伝えなくてはいけないんですね、溜め込むとお互いのためによくない。相手もわからないで、『傷ついてる』と知らないで言ってると、こっちはこっちで傷ついてるし、それではいい関係にはならない。やっぱりお互いの距離を縮めるためには一歩踏み込まなければいけない。この作品ではそういうメッセージもあると思います」

 --今回は広島を舞台にしていますが、広島はまったくの初めて?

「はい。広島弁にも初挑戦させていただきました。私、大阪出身なのですが、“エセ関西弁”ってすごく気になるんです。関西が舞台のドラマを観ていて、少しでもイントネーションが違うとストーリーが頭に入ってこない。この作品の中澤香織さんの台本がすごく好きだったので、地元の方が観て、方言が気になることでストーリーが入らなくなるのは絶対嫌だと思いました。“原爆の絵”の取り組みに参加されてきた方、そしてこれから参加される方に届けられるように、方言だけは絶対失敗しないように、すごく練習しました。先日広島で試写会があったんですけど、現地の方が『広島弁完璧でした』って言ってくれて、本当に嬉しかった!」

--広島滞在時に名物で印象的だったものは?

「がんす(広島の練り物)が美味しかったです!お酒と合うなと思いました」

--えっ!? お酒を飲むイメージってないですよね。

「飲みますよ(笑)、20歳を超えたので。でも近藤さんからも『ずっと高校生だと思っていた』と言われてしまいました(笑)」

 --このドラマのように、地方の公立高校のまじめな生徒のイメージが本当にハマりますね(笑)。ところで女優として今後やってみたい役は?

「これまでは明るい役とかポジティブな役が多かったので、もっと幅広く、時には負のイメージの悪い役もやってみたいです」

--デビューして約5年、なんとなく小芝さんのイメージが固まりつつあるのかもしれません。

「はい。いい子の役が多かったので、それを打ち破るような悪~い役もやってみたいです」。

--実際私生活では“悪女”の要素はないですよね。

「さぁ、どうですかね…(笑)。でも下手なことをしたら母に怒られます」

 --ところで今回演じた里保も本当にどこにでもいるような高校生ですが…。

「はい。ナチュラルにナチュラルにということを心掛けました」

--悪女とかわかりやすい特徴がある役よりも、“普通”って一番難しいと思います。演じていて何がナチュラルかってわからなくなりますよね。

「そうーー!!  ナチュラルっていっても私の中でのナチュラルでしかないので、多分10人いたら10人とも違うと思う。でも今回の里保を観て、本当に普通の高校生だなって思っていただければありがたいです。『あー、こんな子おるなぁ』『あー、わかるわ』って!」

ヒロシマ8.6ドラマ『ふたりのキャンバスはNHK総合テレビで8月1日(火)19時30分から中国地方先行放送、5日(土)15時5分から全国放送。

〈プロフィール〉

1997年4月16日生まれ、大阪府出身。2011年『ガールズオーディション2011』でグランプリに輝き、2012年女優デビュー。これまでNHK連続テレビ小説『あさが来た』で主人公・あさの長女・千代役を演じたほか、映画『魔女の宅急便』『天使のいる図書館』で主演。9月23日から神奈川芸術劇場などで上演される舞台『オーランドー』に出演。