マルチプロデューサーの なるせゆうせい氏が脚本・演出を手掛けるオリジナル舞台作品『ロッカールームに眠る僕の知らない戦争』が、2024年2月2日から4日まで草月ホールにて上演される。出演は東拓海、相楽伊織、市川美織ほか。
安保闘争時代の学生運動をテーマにしたこの作品は、ドフトエフスキーの不朽の文学作品『罪と罰』を安保の時代に置き換え、理想と現実の間で揺れる若者たちを描いた群像劇。
公演目前の稽古場に、相楽伊織さんと市川美織さんを尋ね、舞台の見どころや、意気込みについて聞いた。
--作品のオファーを受けて、最初に台本を読んだ時の感想は?
相楽「学生運動がテーマの作品で、私が生まれる前の出来事について知らないことが多かったので、台本を読んだ時は衝撃的でした。この国のことなのに、あまりにも他人事すぎたと思います。学生運動の話に触れたのが初めてだったので、すごく衝撃を受けました。実際にはもっといろいろな活動があったと思うんですけど、台本の中だけでも、すごく若者の熱い想いや、日本を変えたいという想いが伝わってきました。今って、政治に興味がある若い人がすごく少ないと思うんですけど、当時の日本は激動の時代だったのかなって感じましたね」
市川「私にピッタリの役柄だからと聞かされて、ノリと勢いでオファーを受けたのですが、改めて台本を読んでみて、今まであまり触れてこなかったジャンルのお芝居だなと思いました。でも、面白そうだったので、2024年、私が初めて出演する舞台にふさわしい、挑戦的な作品だと思いました。新しい役にぶつかって、複雑な内面をどう描けばいいのかを悩めたら面白いかなと思いました」
--ご自身の役柄について聞かせてください。
相楽「純子は主人公を惑わすヒロイン役です。学生運動に参加していて、タモツを団体に引っ張ってきて活動に参加させる役です。天然でカン違いに気づかないところがあるんですけど、ウソをついて騙そうという気はなくて、本当は純粋な優しさを持ってる子です。家庭環境が少し複雑で影の部分もあったりして、演じる上で気持ちのバランスが取りづらい役ではありますね」
--役柄と自分を重ねてみてどうでしょうか?
相楽「私と似ているかは分からないですけど、純子のセリフはすごく言いやすくて、自分の想いが自然に発せられる言葉なので、もしかしたら近いのかなとは思います。でも、純子は天然な部分がありつつ、信念に軸があって、この軸がしっかりしてないと、天然な部分とタモツに対するちょっとした優しさが、ギャップとして活きてこないとので、活動に対する熱い想いはしっかり持っていたいなとは思います」
市川「私が演じるのは主人公タモツの妹、四ツ葉です。お人好しで自分よりも家族やほかの人の幸せを想っている心優しい、ごく普通の女の子です。私自身は、四ツ葉ほどお人好しではないと思います。でも、人って誰もがいちばん自分が可愛いじゃないですか?
私はアイドル時代、自分を一番可愛いと思っていなければ、周りにどんどん抜かされると思っていたので、あえて自分にそう言い聞かせていた部分もありました。でも、ずっと頑張ってこれたのは自分の一人の力ではなく、ファンの人が支えてくれてたからだと、卒業してから特に思うようになりました。
自分がもらった幸せを還元したい。応援したりされたりして、お互いに楽しい。そういう関係性をファンの人と築けたらいいなと思うようになったので、四ツ葉が描く幸せも理解できそうな気がします」
--作品の舞台である60年代のイメージは?
相楽「私にとって60年代は大昔のイメージです。やっとカラーテレビが出始めた時期なので、その時代を生きていた人が今も生きていて同じ世界で暮らしているのが少し不思議です。スマホや携帯がないなんて想像がつかなくて、どうやって生活してたんだろうと思います」
市川「私ももちろん生まれてないですし、文通と聞いて“そっか、メールがないんだ”と驚きました。今年も震災がありましたけど、そういった情報が手に入らないのはすごい不安だったろうし、私には耐えられそうにありません。その時代の人は強かったんじゃないかな」
--60年代と言うと、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズとほぼ同じ時代です。人々の熱気があふれた時代として描かれることも多いですが、本作では、あまり陽が当たらなかった部分が描かれていますね。
市川「教科書でも表面的にしか学んでこなかったので、深く見つめることで、今の自分はどうなんだろうと考え直す機会になった気がします。どの時代にも、いいこともあれば、悪いこともあって、失敗から学ぶことってたくさんあるはず。私たちや、もっと若い世代の人たちに伝えていくことは大事なんじゃないかな」
--稽古の様子や共演者さんについて聞かせてください。
相楽「最初は皆さん緊張していましたが、徐々に稽古場に慣れて打ち解けられるようになりました。この作品は暴力的な部分もありますが、優しい人たちで作るので、人間らしい部分も丁寧に描かれる作品になると思います」
市川「伊織ちゃんとは、コントのイベントでご一緒したことがあります。その時はあまり話す機会がなかったんですが、名前が似ているので印象に残っていました。顔合わせのときに演出のなるせさんが“今回はロックなメンバーを集めました”と言ったんですが、伊織ちゃんには芯の強さを感じますね」
--市川さんもロックなんですか?
市川「えっ、私もロックなんですか? って思ったんですけど(笑)。でも、稽古が始まってみると、なるせさんの言っていた意味が分かった気がします。学生団体のメンバー役の人たちは特に気合が入っていて、すごい雰囲気を作り上げているんです。その中で伊織ちゃんは、絶対にこんな団体にいないような、ふわふわした感じなんですが、逆にその流されないお芝居を見て、(この子はすごい肝が座っているな)と感じる場面がいくつもありました」
--市川さんと家族を演じる二人について。
市川「主人公タモツ役の東拓海さんは、実は私より年齢がちょっと若いんですけど、稽古に入って最初の頃からセリフが全部頭に入っていて、すでにタモツの人生をちゃんと演じてるのが、すごいなって思いました。普段は、私がボケたり、いじったりすると、煩がられるんですけど、それもお兄ちゃんと妹みたいなナチュラルな感覚で接してくれます。お兄ちゃんとして頼もしいけど、頼もしすぎない主人公というところがいいですね。段取りではなく、その場の気持ちで演じてるのが伝わってくるので、物語に巻き込まれていく感じがそのまま出ていて、稽古を重ねるたびにすごいと感じます。
母親ヒガミ役の久下恵美さんは、とにかくパワフルに食い込んできます。東さんも、初めて一緒に合わせた時に圧倒されてたよって言ってました。でも、グイグイのお母さんと控えめな私というギャップがさらに面白くなっていて、さすがだなって思いますよね。しかも大ベテランの方なのにずっと稽古をやりたがるんです。納得がいくまでやろうとする姿勢がすごくて、こういうところを見習っていかなきゃなって思います。とにかく必死に練習されてて、こういう努力があとで実を結ぶんだろうな、一生忘れちゃいけないことだなと、いろいろ学んでおります」
--稽古は順調に進んでますか?
相楽「稽古場の雰囲気はいつも笑いが起きていて、全然ピリピリしていません。なるせさんがとても優しい方なので、自然と優しい空気で稽古は進んでいます」
--なるせさんについてはどんな印象ですか?
市川「何をもってロックと私を判断したのかわからないんですけど(笑)、前になるせさんが脚本の舞台に出演させてもらったご縁で、お声がけいただいたと思います。四ツ葉は最後に重要なシーンがあるんですが、“この子ならできる!”と思っていただけたなら、それに応えられるように頑張りたいです。そのまんまの穏やかな方で指導はすごく優しくて、ちゃんと的確なアドバイスを分かりやすくされるので、稽古もやりやすいですし、全体の雰囲気もいい現場だなって感じています」
--なるせさんは、ファミリー向けや、ハートウォームな作品を得意とされる印象だったので、こういった社会派も描かれるとは意外でした。
相楽「今回も子供無料招待の公演枠があるので、私より下の子たちにも見てもらえるように、わかりやすく伝えられる作品にしたいと思います」
--純子のセリフに“革命”というフレーズが何度も登場しますが、自身が革命したいことはありますか?
相楽「私は舞台のお仕事の他にグラビアのお仕事もやっていますが、この作品は私自身が役者としても、人としても、自分の中で革命を起こすきっかけになる気がしています。もっと貪欲に、演技について深く探っていきたいです」
--四つ葉は、幸せについて想うシーンがあります。市川さんにとって“幸せ”とは?
市川「寝てるときも、美味しいものを食べたときも、小さな幸せをいっぱい感じてますけど、何が本当の幸せなのかは永遠のテーマだろうなと思いながら生きてます。でも、自分が好きなことがあるってだけでもう幸せだし、自分の育った環境とか、自分の周りの人たちのおかげで幸せって感じるんだろうなって思います」
--最後に舞台への意気込みや、お客様へのメッセージを。
相楽「この作品は表と裏の対比がしっかりしていて、その狭間でタモツが何もわからないまま巻き込まれて揺れ動くのですが、その気持ちの流れが雑にならないように、一つ一つの出来事をしっかりみなさんにお届けできたらと思います」
市川「生きている中で、人同士いろんな食い違いがありますけど、絶対の正義も、絶対の間違いもないと思います。誰もが自分が好きなように生きられる世界を作っていきたいと願っているはずなので、みんながこの作品を見て、もうちょっと解決できるように頑張ってみようという心の糧に少しでもなればいいなって思います。とにかく、観て良かったって思ってもらえるのが1番なので、ぜひ楽しんで欲しいです」
舞台【ロッカールームに眠る僕の知らない戦争】
◆脚本・演出:なるせゆうせい
◆公演期間
2 月 2 日(金)~2 月 4 日(日)
◆劇場
草月ホール(https://www.sogetsu.or.jp/about/hq-building/hall/)
〒107-0052 東京都港区赤坂 7-2-21 草月会館地下 1 階
《公演スケジュール》
2024 年
2 月 2 日(金) 18:30
2 月 3 日(土) 13:00/17:30
2 月 4 日(日) 13:00/17:30
全 5 公演 ※開場時間は開演の 30 分前予定
《出演キャスト》
東拓海、相楽伊織、市川美織、
伊万里有、佐藤祐吾、倉知玲鳳、磯野亨、足立英昭、あまりかなり、上之薗理奈、高橋ピロリ、
柊木智貴、青地洋、
久下恵美、丸尾聡、
末原拓馬
◆アンサンブル
舛田大樹、鈴理
《公演詳細・チケット情報》
【公式ホームページ】
https://www.rokaboku-stage.com/
【公式 X(旧ツイッター)】
https://twitter.com/rokaboku_stage
《あらすじ》※資料より
時は、高度経済成長し続けた 1960 年代後半。
世界を変えるのは自分たちだと本気で信じ、学生運動が活発化していたそんな時代に日暮タモツ(18)は大学に入学した。
タモツはまったくのノンポリだったが思想を持つインテリがモテるという理由だけで、熱き思想団体に入部。
マルクスかぶれのフリをし、世界を変えられるのは自分だと吹聴したタモツに団体のリーダー・七曲は新入生歓迎の儀式だと、ある指示を出す。とある場所に行き、とあるスイッチを押してこいと。
思わぬ罪を背負うことになったタモツは、更なる時代の渦へと巻き込まれていく……。
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