【渋谷飛鳥インタビュー】舞台『アンフェアな月』に出演「雪平役の篠田麻里子さんとは心の中で斬り合いをしているような…」

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渋谷飛鳥
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女優の渋谷飛鳥さんが、人気のハードボイルド・ミステリーシリーズの舞台化作品『アンフェアな月』(2月22日〜・天王洲 銀河劇場)に出演。物語の発端となる、生後3ヶ月の赤ちゃんを誘拐されるシングルマザー・冬美役を演じる。今回の舞台への意気込み、そして『全日本国民的美少女コンテスト』グランプリ受賞から今年で16年、30歳を目前にした、女優としての“現在”を聞いた。

--最近はお母さん役が目立ってきていますね。

「そうなんですよ!まだ、なかなか“お母さん”ということを掴みきれていないというか、実際にお母さんになったこともないので、子育ての大変さを表すには本当のお母さんにはなかなか敵わないなと感じています」

--お母さん役を演じる時にはどうやって役作りを?

「母や友達から話を聞いたり、育児ブログを読んだり…。今回演じる冬美は未婚の母で、妊娠8ヶ月くらいのときに旦那が逃げてしまって…という設定です。フリーのイラストレーターで収入が少ない中、一人で子育てをしています。また職業柄、常時子どもと一緒にいて、そういうのを考えれば大変だなと思います」

--物語の発端となる誘拐事件は「お母さんの狂言では?」という疑いも出るそうで。

「冬美が最初に交番に行ったときに、お巡りさんにちゃんと取り合ってもらえなくて、それで8時間後に110番するんです。その8時間何をしていたのか…というところから疑惑が生まれます。原作を読んだ方はその8時間に何があったかはわかると思うんですけど…」

--『アンフェア』シリーズは原作のファンも多いですよね。

「はい。ただ、この『アンフェアな月』は一度も映像化されていないんですよ。『アンフェア』といえば雪平夏見が出てきて、安藤や山路も出てくる、おなじみの世界観で。みなさん篠原涼子さんで再生されると思うんですけど、舞台版では雪平の印象が全然違うと思います」

--雪平役を演じる篠田麻里子さんはじめおなじみの役柄を演じる人は迷うかもしれませんが、その点渋谷さんが演じるのはこの作品のみのキャラクターということで、その苦労はしなくていいのかも。自分なりに役作りができて。

「はい、原作を読むと、台本には書いていない背景などが結構書いてあって、それを参考にしながら役作りをしています」

--初めてのキャラクターを演じるのに、原作の設定が具体的だと助かりますね。

「はい。また今回の舞台は全体的に原作を忠実にした台本になっています。もちろん舞台で見せるにあたって必要な部分は変えてあるんですけど…。セリフも基本的に台本に忠実に、と言われていて。セリフを言うにあたって、ふと口をついて出る言葉ってありますよね。それは『ううっ』とか擬音ならいいけど、『助けて』とか言葉にしないようにと言われています」

--それは雪平以下すべてのキャストがそういう感じで?

「みんな原作本を持っていて、私も稽古が終わって帰ったら、すぐに原作を読んで復習しています。稽古場では演出の菅野(臣太朗)さんの横には常に付箋だらけの原作本が置いてあります。でも実は、一番の見せ場の『ここを変えるの?』というところで変わっています。『えー』って驚いて。桃太郎で言ったら、鬼退治の場面で鬼じゃないのが出てきた、みたいな(笑)」。

--それはワクワクしますね。でも原作ファンは内容を知っているから、舞台ならではの意表をつくのも必要だと思います。

「そうですね、いい意味での裏切りもあって、原作ファンの方にも楽しんでもらえると思います。基本的に原作に忠実にという方向でありながら、でも映像作品や今までの『アンフェア』作品を超えたいという思いはみんなにあって。新しいものを見せたいというか、『ああ、こんな表現もあったのか』『こんなふうに突き詰められるのか』というところを見せたいなという思いです」

--その他渋谷さんが個人的に心掛けていることは?

「お客さんから見て、『なぜこの人はこういう行動をしたんだろう』という疑問がわいちゃうと、そこで止まってしまうと思います。刑事ドラマなので、言葉で説明してくれるところもあるんですけど、その状況をセリフだけではなく視覚的にも感情が入ってくるとか、なぜこの人はこういう行動をして結果こうなったのかということを、なるべく疑問なしでお客さんをいざなえればなって思います。そこが難しいんですけどね。映像だったらちょっとの表現でいいところを、舞台だから表現を大きくしないと伝わらなかったり」

--でも大げさにやりすぎるとコントみたいになっちゃう…。

「そう、そうなんですよね!オーバーにやってもいけない。演出の菅野さんは気持ちを大事にしてくれる方で、たとえば自分にセリフがなく、みんなのセリフを聞いている場面でも、とりあえず好きに動いてみてと。それでダメなときにはダメって言ってくれると思うんですけど。リアルだとこのセリフで『あっ』と気づくけど、舞台演出的には次のセリフで気づいたほうがいいよねとか、リアルと舞台演出の間をどうやってとっていくかということをみんなで話し合いますが、でも基本的に気持ちの部分を重視してくださる演出家さんです」

--こういう内容の作品だと、演じるほうとしてはありがたいのでは?

「無理に舞台的な表現をしろとは求められない。だから私も、『これ全然動いてないけど大丈夫?』と思うこともあるのですが、でも、そこで気持ちが動かなければ無理に身体が動かなくていいと言ってくれます。その分、一言一言のセリフのキャッチボールを慎重にやらなければいけない。集中力を持続することがつらいですね。家に帰ったらクラーっとなります(笑)」

--1年前のインタビューで会話劇についてすごく考えているという話がありましたが、それが活かせる場に恵まれて良かったのでは。

「そうですね。特に雪平役の篠田麻里子さんと二人で話すシーンで台本には
雪平「……」
冬美「……」
雪平「……」
というようなやりとりが小説通りにあるんですよ。これがドラマだと「……」の部分に、ここは雪平を抜く、ここは冬美を抜く、ここは2ショット…みたいに書いてあるんですけど、舞台でこれってどういうこと? ただ止まった画にしか見えないんですよねと。そこでも自分たちの感情のキャッチボールをしてほしい、みたいな難易度の高いことを言われます。それは難しいんですけど、おもしろいです。うまく伝わればいいなと思いながらやっています」

--それは相手とじっくり話し込めばいいというわけではなく、その場での感情のセッションが繰り広げられるような。

「篠田麻里子さんとは稽古のたびに毎回心の中で斬り合いをしているみたいな感じです(笑)。行くか行かないかとかという。集中力がかなり必要ですね。最初の本読みの時には、普通みんな本を見ながらセリフを言うんですけど、でも篠田さんは手元の台本を見ずに、バッとこっちを見ながら芝居するんですね。『やろうぜ!』みたいな気迫を感じて…」

--それは下を向いてられないですよね。

「はい。『わ、この人全部入ってる!』とびっくりしました。あとで聞いたら他のキャストの方たちも驚いていたみたいです。みんな本読みの段階だと覚えなくていいと思っていたところ、あの篠田さんを見ると、まぁ覚えますよね(笑)。そこからみんな必死で」

--年下の座長の篠田さんがみんなを引っ張っていってくれる感じですね。そんな渋谷さんと篠田さんのやりとりも含め、感情のセッションが本番の舞台で見られることが楽しみです。

「菅野さんの中では一つのゴールは決めているみたいで、一言一言の細かいニュアンスは細かくみんなに指示しているんですよ。会話劇の一つ一つのキャッチボールの仕方を全部決めていらっしゃってそのゴールに向かって走っているんですけど、でも、そのゴールを覆したいなという思いもあって、もっといい表現がないかなとか、もっとしっくりくるものはないかな、それはみんな考えていると思います」

--そのゴールをいい意味で覆すというのは、菅野さんも望むところでは?

「超えてほしいというのは多分あると思うんですよね」

--今回のキャストの中では、冬美の立ち位置は一番普通の人のキャストというか、観るお客さんに近いのかな?

「こちらから共感を得ようとして演じないですけど、もしかしたら共感してもらえるのかも。冬美の状況というのは、誰にでも起こり得る状況なので、なるべく“普通”にやろうと思っています。ただ普通にやることが一番難しく、どうしてもキャラクターを立てたくなっちゃうんですけど、周りの刑事さんとかみんなキャラクターが強いので、一番影薄くあろうと。それが今回の一つの自分のテーマであります」

--ストーリー的な特徴としては?

「原作本を読んだときに、いろんな事件やいろんな出来事が、重なって重なって絡み合って、時系列もごちゃごちゃになっていて、『えっ?えっ?』って何回も戻ったりしないと、台本として読めないんです。それだけ物語に吸い込まれていったのですが…」

--それを舞台で表現するのは難しそう。

「難しいですね。一応時系列もわかりやすくなっているんですけど、わかりやすすぎても小説の良さを消しちゃうので、お客さんが『えーっ!』と思って、楽しんで帰ってもらえたらと思いますね」

--楽しみですね。

「演出家さんには『舞台は笑わせたら正解』『泣かせたら正解』とか、いろんなタイプの人がいらっしゃるんですけど、今回は泣くとか笑うとかじゃない。ただ『お客さんが“楽しかった”といって帰ってもらえるように頑張ろう』とおっしゃってるんです。俺たちの何かを見せようではなく、お客さんが楽しんでくれたらということが一番だという」

--さて、渋谷さんが『全日本国民的美少女コンテスト』でグランプリとマルチメディア賞をW受賞してから今年で16年。早いもので20代最後となり、女優としても中堅的な立ち位置になってきていますね。

「本当に(誕生日の)7月が来ないでほしい(笑)。私、10代の頃って老けて見られたんですけど、年齢が追いついてくるタイプの人だったみたいで、昔から『大人になったら若く見えるタイプだよ』と言われていて、ありがたいことに実際今はそう言われることも多く、まだ若い役ができるかなと思います」

--今年30歳になるにあたって女優としての思いのようなものは? 節目のような思いとか。

「それはあんまりないですね。30代だからどうということはなく、日々演じられる役の幅が広がればいいなとは思います。年齢感でもそうですし、内面的にも自分でコントロールできれば年齢で区切ることはないですけど、30代にしかできない役もあると思うし、逆にできなくなって役も多いですし、とにかく今を楽しめたらいいなと思います!」

舞台『アンフェアな月』

秦建日子作で出版累計157万部を誇るベストセラー「刑事・雪平夏見シリーズ」。その人気作の舞台化作品。生後3ヶ月の赤ん坊の誘拐事件が発生し、曖昧な要求をする犯人に捜査本部が翻弄される中、幼児のものと思われる遺留品がある山中で発見されるが、そこで捜査員は予想もしなかったものを見つけ…。2月22日(木)〜3月4日(日)天王洲・銀河劇場で上演。

〈プロフィール〉
渋谷飛鳥(しぶや・あすか)
生年月日:1988年7月13日
出身地:新潟県
2002年、「第8回全日本国民的美少女コンテスト』にてグランプリ、マルチメディア賞をW受賞したことをきっかけにデビュー。ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)、『ハンチョウ~神南署安積班~』(TBS系)、映画『DEVILMAN デビルマン』『仮面ライダーダブル』、舞台『忠臣蔵-いのち燃ゆるとき-』、『菊次郎とさき』などに出演。