【工藤綾乃インタビュー 】深夜ドラマ『東京放置食堂』で寡黙な居酒屋店主を静かに熱演「私の人生の中でも特に勉強になった作品」

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工藤綾乃
工藤綾乃

話題の深夜ドラマ『東京放置食堂』(テレビ東京系)に出演中の女優・工藤綾乃さん。“もうひとつの東京”といわれる大島を舞台に、居酒屋の寡黙な若い店主を演じている。『全日本国民的美少女コンテスト』グランプリから12年、これまでの彼女とは一味違う役柄で、“特に大きな存在の作品”に出合ったという工藤さんが、本作についての思いを語った。

--物語の舞台は全編大島ですが、撮影のためにどれくらい島に行ってたんですか?

「1週間行って3日帰って……というのを繰り返して、ほほ1ヶ月くらいで撮影しました」

--こういう島でのドラマや映画の撮影って、その日の撮影が終わって夜に現地の飲み屋で島の人と交流したりというエピソードも聞きますが、こういうご時世でそれはなかなか厳しかったのかも。

「はい。毎日撮影現場とホテルの往復で……。コンビニもないし、ホテルの近くのスーパーも夜7時で閉まってしまうので大変でした。ただ、中秋の明月の日には、撮影が早く終わったので、近くにあった堤防まで一人で歩いていって、ぼーっと月を見ていました。私そうやって景色を眺めるのが好きだから、1時間半くらい一人で堤防に座って見ていました。めっちゃキレイでした! 東京で見る月よりも。あ、大島も東京なんですけど(笑)。この辺りで見る月よりもずっとキレイに感じました」

--撮影は楽しく臨めましたか?

「楽しかったです。初めて行った場所というのもあったし、何よりこういうがっつりレギュラーで毎回見せどころもある役というのは久しぶりだったので。やっぱり現場が好きなので、芝居に没頭できたことが何より楽しかったです!」

--役柄的には今まで演じたものとはまったく違いますよね。寡黙な居酒屋店主にして、くさやの会社を営む社長・渚さん。物事をはっきり言い、生き方に意志の強さを感じる女性です。

「はい。今までの役とはだいぶ違います。キャスティングしてくださったプロデューサーさんはもともとお世話になっていた方で、“20代でお酒を飲む女の子で、オジサンみたいな面もあって、役柄的に居酒屋の主人で芯をもって生きていて……”ということで、ピッタリな役と言っていただきました」

--工藤さんのことをうっすらとしか知らない人から見ると、「こんな役もやるんだ!?」と意外に感じるかもしれないけど、実は結構素に近い役柄かもしれない?

「私が人から見られるイメージは渚とは違うと思いますが、根本的な性格、人に対する当たりだとか、はじめましての人が苦手だとか、結構似ています」

--そういうところありますよね。

「私自身もちょっと警戒してしまうところがあって。だから人間的な核の部分で渚のことはすごく理解できます。でも渚って物言いがすごくストレート。『バカじゃない!?』『何やってんのよ!』とかそういうストレートな物言いをすることは私はありません。私ビビりだし、あんまり干渉されたくない。“私のことはあんまり見なくていいから……”と思っちゃうほうなので、上手い具合に回りくどく言うタイプなんですよ」

--波風立てないように?

「はい、すごく平和主義で(笑)、波風立てないように立てないようにと考えて動いているので、言葉をストレートに言えるのは羨ましいです」

--でもこれまでの役の中でも特に演じていて楽しさがあるかもしれません。

「役を通して自分自身を知れるというか、渚と私はこの部分が共通していて、この部分は違うなとか、改めて自分を分析することができて、また人の人生を分析できることが楽しいです。その違う部分がいい具合に合致したときに、“工藤綾乃が演じる渚”がつくりあげられるんだなというのをすごく感じました」

--それは主要キャストであり、自分と同世代の、キャラクター性が強い役ではなく普通の女性という役柄だからこそ、というのはありますよね。

「そうですね。あと、この現場は“作品を作ることが大好き”という熱量を持った人がたくさんいて、そこにすごく刺激を受けます。ドラマの撮影って、現場ですり合わせをして短時間で作り上げるというイメージですが、今回はプロデューサーさん、脚本家さんとの最初の脚本会議のところから私も入らせていただいて、脚本家の方から“こういう意味合いで渚を書きました”と説明を受けたり、準備段階から参加させていただきました」

--撮影に入る段階で脚本や渚の役柄が自分に馴染んだ状態だった?

「実戦的な部分は現場に入ってからですが、役に対する準備段階というのを作っていただき、本当に“いいものを作りたいんだな”という気持ちは感じました」

--そういうところは自分の肌に合っていた?

「合ってました。これまでいろんな現場で、自分なりに考えて芝居を現場で披露して違ってたら修正していく、瞬発力みたいなものが必要だったんですけど、今回の現場は準備段階から意見交換をさせてもらって、監督にはじっくりと役作りについて教えていただきました」

--そういう作業が好きなんだなと伝わってきます。女優さんをやっている以上、たとえば夜の9時台10時台の大きな作品の目立つ役を演じるということももちろんありがたいと思うんですけど、こういう、規模は大きくないけど熱量の高い人が集まって手作り感覚のように作っているような作品は、特に合っている気がします。

「好きですね。めちゃくちゃ好きです! なんかはまっちゃいましたね。現場では監督から、『いや、それは違う!』『それじゃ全然伝わらない!』とか結構厳しくやられました。『もっと綾乃ちゃんの思う渚を出してほしいんだよ!』みたいなやりとりを重ねて……。監督もすごく熱量がある人で。だからめちゃくちゃ勉強になりました」

--渚は居酒屋のカウンターに立ち、客として来たゲストキャストとやりとりをしたり、堤防で釣りをしていたりなど、日常のちょっとしたやりとりのシーンが多く、設定として自身に大きな事件が起こるわけではない。その中で淡々としたやりとりのセリフが多いですよね。

「それが難しくって! やっぱり感情をポンっと出したり、大きな事件が起こった中でのセリフだとやりやすいんですけど、日常のシチュエーションとか口数が少ない役って、しぐさひとつ、まばたきひとつで相手に伝わる印象が変わってくることもあるので、だから本当にわかんなくなっちゃったときもあって。でも何が正解かわからないと思ってやっていると、それってすぐ伝わっちゃうから、そうならないようにしなければならない……」

--こういう役だからこそ“地の工藤綾乃”が試されるのかも。

「(共演している)片桐はいりさんってお芝居の引き出しがすごいんですよ。長年役者として場数をすごく踏まれているので、存在感を一瞬に出すという手法もよくわかってらっしゃって。それがすごく魅力的で、二人で映っていると私ってまだまだだなと感じます。それが画面から伝わってきて……」

--片桐さんのおまけみたいになってしまうといけない。

「そう、自分の存在が“居酒屋店主A”みたいになっちゃわないように。寡黙でセリフが少ないと流れがちになってしまうので、それは注意していました。かといって、すごく笑ったり、大きな動きをできるわけではないので、気持ち的にも演技的にも狭くなってたんですよ。そしたら監督から『もっと空間使っていいんだよ』と言われました」

--空間を使うとは?

「特別大きな動きをするわけではないけど、居酒屋の中で何かものを取ったり、立っている位置から離れたり自由に動いてもいいよ、と」

--なるほど。でも“存在感”ってその人自身から滲み出るものも大きい。片桐さんは見た目も芝居もインパクトがある。“寡黙な店主”といっても、たとえば60代のシブい男の俳優さんが演じるような、経験から滲み出るような存在感は出せない。だから今の20代の自分が出せるものを出すしかないのかも。

「そうですね。立っているだけで味が出る人っているじゃないですか。そういう存在感が必要だけど、自分がまだまだ浅いなということを痛感しました」

--でもまだ20代だし、それは同年代だと多分みんなそうですよ。

「そうなんですかね。本当にもっと磨いていきたいです」

--でも渚を見ていると、これまでの人生でいろいろ背負ってきて、強い女の子ということは、言葉数が少ない中でも空気感から伝わってきます。

「言葉数が少ないからこそ、監督から『発する言葉を大切にしてほしい』と言われたし、私も大事にしたいと思いました。それが流れてしまわないように。そこは苦労したけど楽しかったです。今回ベテランの俳優さんたちと共演させてもらって、“すごいな、圧倒されるな”と」

--今回は華やかな役者さんというより個性派、演技派の方ぞろいで。そういう現場を経験すると、ますます女優としてそっち方向に舵を切っていきそうな。

「そうですね、もちろん王道のドラマだってバリバリ出たいですよ。でもそこで存在感を出すためには、もっと場数を踏んで出たほうがいいのかなと思います。私は息の長い女優になっていきたいので」

●“周りが見るイメージと実際の自分”“女優としての理想と現実”…ギャップに悩んだ時期を乗り越えて

--国民的美少女コンテスト・グランプリ受賞者のイメージから、お嬢様っぽいとか、元気いっぱいの美少女とか、これまでそういうイメージで見られる機会も多かったと思います。

「優等生タイプなのかなと言われます。でも実際は……という感じで(笑)」

--世間のイメージと実際の自分とのギャップに違和感を感じたり悩んだりした時期はもう乗り越えた感じですか?

「乗り越えましたね。今は自分らしくやれてて楽しいなと思います。正統派な役もできますし」

--以前は“美少女”“優等生”と見られることは嫌だと思ったことも?

「それを嫌だった時期もあったけど、今は別に、もう少女でもないので、どう見られようと……という感じではあります」

--マツコ・デラックスさんを相手に本音でトークした『アウトデラックス』(フジテレビ系)の出たことも大きなきっかけになったのかも。

「はい。マツコさんに『覚悟がない』と言われたことが心に刺さっていて、私この仕事をずっとやってきているけど、学生時代はこの仕事だけじゃなく、いろんな選択肢を自分の中で考えていたんです」

--周りから見られる自分のイメージだけでなく、自分自身のスタンスにも迷いがあった? 宮崎県出身の工藤さんは、グランプリ受賞後すぐ上京するのではなく、高校卒業まで地元にいたんですよね。

「はい。将来一般の会社に就職して……というのも頭の隅に置きながら生きてきたので、大学も行って、でもこの仕事しているときが一番楽しくて、そんなときにマツコさんから『覚悟がない』と言われて。私は“やっぱりこの仕事がやりたいと思ってこっちに来ているわけだから!”と改めて思いました。中学や高校のときから、芸能コースに入って仕事に専念していたわけではなかったけど、いい意味で違う人脈ができたというか、一般の高校に入って、大学に行ってという道を選んできたから、ちょっと違う経験ができたのかなと思います。それが役に通じることもあるし、それはそれで私の人生だからよかったなと今は思えるようになりました。ちょっと前までは、“なんで逃げてたんだろう”とマイナスに捉えていたんですけど、今思えば、普通の高校生、大学生を経験したからこそ、いろんな経験ができたし、それは糧になるんじゃないかなと思います。ちょっと遠回りになったけど、ずっとこのお仕事をしていきたいという覚悟を決めました」

--さっき「息の長い女優になりたい」という話が出ていたように、結果的にいい流れになってきているのかもしれません。

「自分が歩んできた道は今はめちゃくちゃ肯定的にとらえられています」

--人生で“~たら”“~れば”って誰もが思うもので、高校生の頃から上京して、人前に出る機会が多かったら、もっと早く人気者になれたかもしれないと思ったことも?

「中学生のときに出演した作品のキャスティング担当の方に、『あなたは普通の人生を経験したほうがいいよ』と言われたのが頭に残っていて、それで地元の高校に行きました。21歳、22歳の頃にはそれを後悔したこともあって。理想と現実が違っていたという思いは正直あったんですけど、それはそれで……」

--でもキャリアを重ねる中でだんだん自分にとってしっくりくる場所に近づけてきた気がするのかも。

「そうですね。“やっと”って感じですね」

--試行錯誤しながら?

「今もすごく試行錯誤はしているんですけど、ここからどう進むかと。でもいろんな経験ができことはすごくありがたいと思います」

--さて今回の作品では人間模様をじっくり描くとともに、大島の居酒屋のおいしい食事を紹介するのも見どころの一つとなっています。撮影の合間には番組に登場するおいしいものを食べられたり?

「厨房での撮影のときには毎回自分で魚をさばいているんですよ。それで撮影で余った魚を刺身にして食べたりしていました。大島で取れたわかめと一緒に食べたり。自分でさばいたお魚は格別でした!」

--もともと魚を料理することをやってた人なの?

「いえ、全然。今回『撮影までに魚さばけるようになってください』と言われて、自主練習の上に、撮影に入る前にフード担当さんに指導していただき、今はもう完璧ですね!」

--共演者と一緒に飲みに行けなくても、おいしいお酒と肴は楽しめたのかも。

「それが撮影期間は全然お酒を飲んでなかったんです。監督に痩せろと言われて、4キロくらい痩せました。まったく飲まなくなったら痩せました」

--ショートパンツからすらっと伸びた脚が印象的な渚のスタイルですが、それはスリムな体型だからキマリますよね、

「ありがとうございます。2ヶ月くらい全然飲まなくて、身体を作りました。それでクランクアップして帰ってきた日のビールがめちゃくちゃ美味しかった! サラリーマンの方が帰宅してプシュッと空けた瞬間のあの喜びを感じました」

--映画『カイジ』の藤原竜也さんみたいな?

「あ、そんな感じ! でもさすがにあそこまでじゃないか(笑)。好きなお酒断ちを耐えて耐えて耐え抜いた先に飲むお酒は格別だなと思いました!」

--改めて今回の作品は工藤さんの女優人生の中でも大きな存在の作品になったようですね。

「インタビューで“印象に残っている作品はなんですか?”とよく聞かれるんですけど、その答えとして一番に挙げるんじゃないかなというくらい、濃い1ヶ月を過ごさせていただきました。自分の人生の中でも特に勉強になった作品です!」

〈プロフィール〉
工藤綾乃(くどう・あやの)

生年月日:1996年5月28日
出身地:宮崎県
血液型:O型
2009年、『第12回全日本国民的美少女コンテスト』でグランプリとモデル部門賞をW受賞。2010年、映画『劇場版 怪談レストラン』で主演デビュー。以降ドラマ&映画『鈴木先生』、ドラマ『HIGH & LOW』『新宿セブン』『インベスターZ』、映画『喝風太郎!!』などに出演。

水ドラ25『東京放置食堂』はテレビ東京で毎週水曜深夜1時~放送。